Encounter

01
 そこは、暗いはずの夜。自然を無視したネオンに照らされた街は、昼間の如く明るくて、空の色まで白く染まっている。しかし、光から逃げるようにビルの隙間へ、狭い路地へと入り込めば、そこは表通りとは別世界だった。闇。音すらも遮断される気がしてくるこの闇は、表の人間が入り込む場ではない。スラム街。表の人間が畏怖の意を込めて呼ぶこの場の名は、しかしこの物語に関係はない。舞台は、この場ではないから。

 雨の降る、深夜。この場に似合わぬ声―――泣き声が響く。

「おかあさん………おとうさん………」

 しゃがみ込んだ姿はまだ幼く、背中はまだ小さい。この路地にも子供が住み着く事はあったが、身形からして孤児ではないと分かる。レースの付いたスカートは、まだ新しいものだった。

「なんで…どうして………?」

 少女の前には陰があった。横たわる、2つの影。あまりに凄惨なその光景は、幼い子供が目にするには些か酷である。真っ黒に焼け焦げた2つの影は、元々生が宿っていたのかすら疑いたくなる姿。光が差せばその場は紅の海になるであろう黒の世界に、現状を理解しているのかしていないのか、ただただ泣き続ける少女の嗚咽だけが響いていた。

「どうして……なんでおいて行っちゃうの……?」

 投げかける疑問に答えるものは誰もおらず。静かに降る雨の音だけが、少女の中に落ちていった。