The Summer
 目の前がさっと開けた。
 目に映るのは、蒼い空と海、白い砂浜に輝く太陽。
 やってきたぜ、真夏の海っ!

 一宮 峡。19歳にして初の、念願の彼女が出来ましたっ
 そして待ちに待った夏。夏と言えば海!
 太陽の下、彼女と2人で海といったら男の夢っっ!!

 なのに。

「なんでお前らが着いて来るんだっ!!!」
 思わず後部座席に座る連中に叫んだ。
「今更何言ってんの、峡やん。もう海はそこだよー?」
「そーそー。まさか峡、今から帰るとか言うんじゃねーだろーな?」
「誰が帰るか!お前らここで落としていってやるっ!」
 ガキの頃から付き合いのある深次に、大学で知り合った剣。
 こいつらには内緒で準備してきたのに…。
 何でバレたのかは、すぐに分かった。
「峡やん怖いよー」
「ほーんと!せーっかくの海なんだから楽しまないとねっ!ね、渚」
「そうだよね、槇ちゃん。峡くん、せっかくなんだから楽しく行こ?」
 ちっとも怖がる様子を見せずに怖がる振りをする深次に続くのが中学から一緒の槇で、隣の助手席に座るかわいーのが渚。
 本来なら渚と二人っきりのはずだったのに…
 可愛いけど鈍感な渚がおしゃべりな槇に話して、それが2人に伝わったのだろう。
 朝、渚を待っていたときにやってきた深次、剣、槇の3人は、バッチリ準備をしていながら、
「そこで渚にあった」
 と言って着いて来やがった。
 んな偶然有るか。
 が、残念なことに、今走っている車は見事に5人乗りであり、乗り込んだ連中を追い返すことが出来なかった。

 しかも。

 可愛い渚が、連中を追い返そうとすると悲しそうな目で
「みんなで行かないの?」
 と言ってくるのだ。
 追い返せるはずがない。

(はぁー。オレの夏・・・)


+++


「海だぁーっっ」
「女の子ーっっ」
「まずはスイカねっ」

 海に着いた。
 車から降りた途端(いや車内でも十分やかましかったがそれ以上に)はしゃぎまくって………
 大体剣、お前は女探しか。
 槇、スイカなんて持ってきてねーよ。
 野郎2人はとっとと走っていきやがった。
 後でガソリン代は請求しても文句はねーよな。
 爽やかすぎる青の海と空は、何故かもの凄く虚しいものに見える。

(オレの夏を返せ…)

 ぼーっと突っ立ていたときに、すぐそばにやってくる1つの気配。
「ねえ、峡くんは泳がないの?」
――― 渚!
「…その、ごめんね。私がみんなと一緒がいいって言ったから…。それで元気ないんでしょ?」
「そ、そんなこと無いよ!大人数の方が、盛り上がるし…な!」
 ああ、何オレは思ってもいないことを言ってるんだ?
 けど渚の表情見てたら、そうしか答えられないだろ。
「そう?それなら良かった。ね、みんなで遊ぼ」
「そーだな」
 はぁ、“みんなで”か。
 見れば早速女に声をかけて玉砕している剣と、波に浮き輪をさらわれた深次がいる。
 ………深次、お前は何歳だ。
「早くいこっ」
 って、手握ってくれちゃってるよ!!?
 やばい。心臓、壊れそう。
 だって今までキスどころか、手を繋いだことすらなかったんだぜ。

「………ね」

 え?
 今何か言ってた様な気が…

「え?」
「………だから、今度は2人だけで………来たいねって」
………!
 渚最高!
 やっぱ大好きだ!!
 夏はまだまだ終わらないぜっ
「もちろん!絶対来ようなっ」

渚の笑顔が見れた。
いつも見てるけど、やっぱり海で太陽の下だと、さらに輝いてる。

来年もまたみんなで来よう。
けど。
今年中にはもう一度。
君と2人で、ここへ来よう。