がくせん!まとめ (〇□〇)
「見えないもの」
その日は救護班が少しだけ少なかった。
元々人員が多い訳でもない。体調不良で一人休んだだけですぐに人手不足になってしまうのだ。
無理せず、深追いせず、危なくなったらすぐに撤退を。それが今日の作戦だった。

なんとか押されずに白軍を撃退し、引き上げる時だった。
カンナは、誰もいなくなったはずの荒野に影を見た気がした。何か、長いものを持っていたような。
即座に報告しようと振り返るも、撤退を始めた仲間達は既に離れた所にいる。
見間違えかもしれない。残党かもしれない。
拮抗する考えに足がガクガクと震えたが、ここで自分まで背を向けてしまったら敵だった時の危険性は想像に難くない。
長刀を強く握り締め、震える手と足を叱咤して一歩ずつ影の見えた方向へと進む。

「…ん、大丈夫、今日いない事になってるから」
それは、どことなく聞き覚えのある声だった。
しかし違うと言われれば違うかもしれない、そんな気のしてくる声。
大勢いる気配は無い。影になって見えない位置にいる一人、そう思った。
これ以上近付けば見付かるであろう距離に来て、ようやくその姿が見えた。
くすんだレンズが映すのは曖昧なシルエット。
それはやはりカンナのよく見知ったものだった。
(…今日は体調不良で来れないって…)
状況を整理しきれない光景、違和感はまだあった。
(黒…じゃない)
シルエットでも色は分かる。
見慣れた黒が、その場には見当たらなかった。
「あとは送った通りだからもういい?もうみんな帰っちゃってるから帰るよ?」
誰に話しているのかは分からなかったが、その口調を聞いて、違う、そう思った。
そう思いたかった。

音を立てないよう、見付からないよう、来た道を戻る。
戻れば、寮で休む彼がいるはずだと。そう信じて少しずつ歩みを早めた。
「何やってたんだ」
仲間達にそう聞かれ、
「ちょっと…忘れ物があって…」
そうとしか答えられなかった。まだ何も確信などないのだから。

振り返った荒野には、もう誰の気配も見当たらない。