壁に固定された豆電球が、ゆっくりと明滅を繰り返している。
一つだけではない。壁のあちこち、低い所高い所にもその光は止まっていた。
箇々に統一感はなく不規則、だがよく見るとそれぞれのリズムはどれも一定だった。
古い時代の小さな明かり。
初めはそれが何を意味しているのか分からなかった。
人づてに聞いた話では、それは古い時代のそれよりもずっと前、太古に暮らしていた生き物の模型らしかった。
果たしてそんなものが本当にいたのかどうかは今となっては知る手段はない。
だが“夢”だとか“ロマン”だとか、そういうモノの対象とするには充分なのかもしれない。
少なくとも、過去を追い掛けている人達にとっては。
俺は現在を生きてる。
つまらなそうに壁の明かりから目を逸らし、止めていた足を再び動かし始める。
長く細い路に長く続く壁、明滅を繰り返す光もずっとその壁に続いていた。
現在を生きていて、未来と戦ってる。
電源が供給されなくなるまで光り続ける、止まった時代のモノとは違う。
ふわりと、小さな光の一つが宙に浮いた、ような気がした。
足を止め首を傾げながら、見間違い?と呟く。
確かこの光の本物はふわふわと飛び回りながら光るのだと聞いた。
そんな怪奇現象があるものかと半信半疑だったが、どうやら偽物の方は飛び回る事があるらしい。
足を止めた目の前を、ゆっくりと飛翔する光。
「びっくりした!?」
じっと眺めていると上から笑い声が聞こえた。
とても聞き馴染みのある声に、顔を上げなくともその姿は想像できた。
飛んでいた光がパッと消え、すぐに上から影が降ってくる。
「びっくりしてたでしょ!」
活発な少年のような印象を受ける少女がニカッと笑いかけてきた。
その手には長い透明な糸と豆電球が握られている。
「そんな子供騙し…大人げない」
「その言い方ひっどいなぁ!折角面白い事思い付いて実戦してあげたのに」
ぷうっと頬を膨らませる姿はとっくの昔に見飽きている。
“夢”だとか“ロマン”だとかを追い掛けている幼馴染みの姿に、大きな溜息が溢れた。
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15分