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タグ: 久瀬深次

もう腕まくりしたくなる季節なのね

 なんだかいつもと違う様子に気付いて、ふと横を見る。何が違うんだっけ?と首を傾げて幼馴染みを凝視すれば、何ジロジロ見てんだ、と嫌そうに返された。一呼吸置いて、あぁ、と手を打つと、やっぱり変な目で見られるハメになった。
「峡やん、半袖なのか」
 一瞬、はぁ?とした目で見られて時が止まる。どうやら向こうはこちらの言葉の意味を理解しようと思考モードに入ったようである。単純な言葉にそう長く考え込むことはなく、数秒後には再び時は回り出した。
「それがどうした?」
 言葉の意味というよりそれを言葉にした者の思考回路に疑問が射したのか、まるで無表情で問い返す。
「や、ね。なんか今日はいつもと違うなーって感じがして」
「………それだけ?」
「それだけ」
 やれやれと溜め息を零しながらうっかり遅くなっていた歩みを速める。このペースで歩き続けていたら確実に始業のチャイムに間に合わない。幼馴染みのマイペース振りはいつものことだったから、そう毎回リアクションを返しているわけにもいかない。
「俺も腕捲っとこうかな」
 やはりマイペース。隣でシャツの袖を無造作に捲り上げた深次は、得意げに峡に笑顔を見せた。

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