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タグ: 海蓮

お題:変身

真っ白な世界をただひたすらに突き進んでいく姿があった。
ビュンビュンと風を切り、まっすぐにまっすぐに、スピードだけを上げて。
どれくらい進んだのか、果たして本人には分かっているのか。
それを知るのもまた、本人だけだった。
不意に、水平に進んでいた動きを垂直に切り替える。
戸惑いも迷いも何も無く、まっすぐに。
そうしてようやくバツンと音を立て、白い世界を飛び出した。
辺りに広がるのは真っ青な空だった。
段々と速度を落とし、ゆっくりと羽ばたき空中で立ち止まる。
大きな翼は、真下に広がる真っ白な海に大きな影を落としている。
しばらく辺りを見回していた梟は、その真っ赤な目を光らせながら再び移動を始めた。
今度の動きには先程のような勢いはない。
まるで散歩でもするかのようにゆるやかに動く翼。
広い広い世界にぽつんと浮かぶ姿は、消えた世界に取り残された生き残りのようにも見えた。

やがて白の海にも切れ目が見え始める。
新しい景色は、ぱっくりと割れた空間からにょきりと頭を突き出している山だった。
どうやら梟はその頂を目指しているようだった。
方向を定めるとじっと赤い目で見つめ、降りていく。

「あっ、エイジくーん!」
静寂な世界に声が響いた。少年のような少女のような高い声で、それだけでは男女の判別が付かない、そんな声。
真っ白な海から突き出た、真っ白な頂を持つ山、そこに声の主は立っていた。
ゆっくりと梟が降りてくるのを確認すると、真っ白な世界に映える黄緑の髪をふわふわと揺らして手を振る。
梟もその姿を見付け、その傍らへと降り立った。
黄緑の髪の人物は初め、地面に着地した梟を見下ろしていたが、すぐにその視線を上へと持ち上げる。
いつの間にか梟の姿はなく、隣には紺色の髪を持つ青年が立っていた。
「おかえり、エイジ君」
にこにこと笑う姿はまるで少女のようだが、少年だと言われてしまえば悪戯っこな少年のようにも見える。
エイジと呼ばれた青年は、黄緑の髪の人物をちらりと見ると、「ただいま」の替わりだろうか、小さく頷いた。
「リオは」
「まだ来てないよん」
エイジはくるりと見回しながら問い掛けるが、返事に納得して視線を動かすのを止めた。
「もう少しゆっくり来ても良かったんだな」
「そしたらオレが一人じゃん、来てくれてありがと!」
「いや、特に意味は無かったんだけど…」
ころころと表情を変える黄緑の髪の人物とは反対に、あまり表情を動かさず、エイジは息を吐いた。

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30分

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