がくせん!まとめ (〇□〇)
「理由?」
どうやらそこには先客がいたようだった。
がらりと扉を開けた音で振り返ってきたのは、金と青の瞳。
「あ、先輩」
気怠げな声が浴場に響いた。
「瑠璃君も来てたんだ」
「ちょうどさっき来たとこでした」
湯に浸かりながら少し見上げてくる彼は、少しだけ笑っているように見えた気がした。

てっきり先に出ていくかと思っていた彼は、思ったより長く浸かっていた。
お陰でカンナが湯船に向かうと、彼の隣に並んで浸かる事となった。
「長風呂なんだね」
「なんとなくです」
?と首を傾げながらも、深く気に留めずに身体を沈める。
しばらく無言の時間が過ぎて、湯の流れる音だけが響いていた。

「そういえば先輩」
前触れなく、瑠璃の方が口を開いた。
しかし視線を向けてみても、彼の視線はこちらを向いていなかった。
「先輩って、なんで戦ってるんです?」
「なんでって」
「だっていつも怖がってるのに、なんでそんな無理してるのかなって思って」
隣にいるのに何故だか遠くに向かって話しているような調子に、どう答えたらいいのかを迷った。
どういう答えを期待されているのかが分からなかった。
「戦わなくてもいいんじゃないですか?」
そう言った瑠璃の声がどこか淋しそうな気がした。

「俺は」
随分と間を置いてしまったが、まだ答えを待っているかもしれないと期待して口を開く。
「戦いたいから、戦うよ」
ポチャンと音が聞こえ、瑠璃が少しこちらを向いたような気がした。
けれどカンナはもう前を向いていた。前を向いたまま呟いていた。
「戦いたくないけど、戦いたいから」
自分でも笑ってしまうような答えだったが、言葉に表せたのはそれくらいだった。

瑠璃君は…と口を開きかけた所でバシャンと水音が響く。
と同時に顔面にお湯が飛んできて一瞬視界が遮られた。
呆然と横を向くと、いつもの気怠げな表情がこちらを向いて、そしてその手が所謂水鉄砲の形になっていると気付いた。
「え…っと」
「先輩、あんまり格好良くないですよ」
ぶっきらぼうにそう言い放たれて、返す言葉を見失う。
「先上がりますね」
立ち上がり湯船から出た瑠璃は、まだ呆然としているカンナを振り返ると思い出したように呟いた。
「そういえば明日時間あったらクレーンしに行きませんか?新しいの出たって聞いたんで」
全く脈絡のない話題転換に、ここでもカンナは返事に出遅れた。
行く、という同意を投げる前に後ろ姿は扉を開けて行ってしまった。

不思議な子だ、と思いながら。
それでも翌日に急遽入った予定が少し楽しみだった。