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タグ: 烈矢

お題:一本道

まばらに木々が生え、明るい緑の草が一面を覆い、その緑を割って陽の光に煌めく川が細く長く流れている、そんな静かな光景だった。川の水は澄んで川底の丸い石たちが転がっているのがよく見える。そよぐ風に緑が揺れる。
川の横を併走する小道に、やがて景色に似合わない爆音が響く。音に負けじと張り上げられる声も聞こえてきた。
「う、うわあああああ」
「にーちゃんばか!危ない!」
どう聞いてもただ事ではない叫び声は、しばらく景色の中の騒音として響き続けていた。そしてしばらく響いたあと、別の衝撃音と共に静かになった。
「だからもー、ばか!」
「ってえ…」
今にも泣き出しそうな声と、絞り出すような呻き声。声に被さるように断続的に続くごぼごぼという空気の漏れるような音。
小道の真ん中には横転してタイヤが空回りしている自動二輪車、その脇には放り出されて転がっている二人の少年がいた。少年の一人が自動二輪車の側面を操作すると、低く続いていたエンジン音はパタリと止まった。そのまま深く息を吐いて、倒れたままの二輪車に寄り掛かって座った。
「だから危ないっていったじゃん」
泣きそうな声は訴えるように言った。言いながら二輪車に向き合うように小道に座り込む。二人の少年は丁度向き合う形で座っていた。
「乗りたいってはしゃいでたのそっちだろ」
「にーちゃんもじゃん」
不機嫌な声が二人分、静かな景色に不釣り合いに響いていた。
小道をすっかり塞いでいる二人と一台だったが、道の先にも後にも通る者の姿は見えなかった。時折鳥が羽を休め、そしてまた飛んでいく程度だった。
「大体、乗った事もないのに二人乗りなんてできないって分かってただろ」
二輪車に寄り掛かった方の少年が口を尖らせながら言った。
事の発端はこっちの少年だった。使われなくなり放置されていたこの自動二輪車を弄ってみた所、まだ動く事に気が付いた。そして興味本位でそれに乗ってみた。そしたらもう一人の少年も後部座席に座り込んでしまった。そして、
「だってホントに走らせるって思ってなかったんだもん」
二人を乗せた二輪車は、必死に動かしたハンドルのお陰で辛うじて道を走っていた。しかし、止まり方が分からなかった。
強制的にその走りを止められた二輪車は、元々あった傷に加えて新しい傷も刻まれてしまっていた。小道はタイヤとハンドルの形に地面が抉られている。
よっ、と小さく声を掛けて、寄り掛かっていた方の少年が立ち上がった。二輪車のハンドルを持って慎重に起こす。細かい砂が大量に付いていたのをパタパタと払うと、地面を再び削りながら方向転換をさせる。もう一人の少年は、座ったままその一連の流れを見ていた。その少年を見下ろして、ハンドルを握った少年はニヤッと笑った。
「帰りも乗ってく?」
「ぜってーやだ!」
座っていた少年は慌てて立ち上がり、二輪車の横に立つ。
「危ないから押して帰ろ、ね?」
「怖がり」
「ちっげえ!」
ムッと声を荒げる少年を見て、ハンドルを持つ少年は吹き出して笑った。そしてゆっくり二輪車を押して歩き出す。
「帰ったら乗れる人いるか聞いてみよ。いたら教えてもらうんだ」
そう言った少年を、並んで歩く少年は嫌そうな目で見ていた。

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30分

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