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お題:プレゼント

迷い無くまっすぐ歩みを進める路地裏。
久しぶりに顔を覗かせたというのに、そこにはよくもまぁ目ざとく見付けるものだと思わせる程の視線があった。
「ボスだ!」
「リーダー!」
「お兄ちゃん!」
「隊長久しぶり!」
見事にバラバラの言葉が全て自分に向けられている。そんな事にも慣れっこだった。
駆け寄ってきた子供たちは輝くような笑顔を惜しみなく溢れさせている。
と同時に、勢いを全く止める様子もなく次々と突撃してくる。
一人二人ならば気にもならないが、五人六人と続くと流石に足が揺らいだ。
「いい加減にしろお前らッ」
ぶつかる寸前の数人を両腕で押さえ、身を捩って数人を避ける。
派手な音を立ててひっくり返った子もいたようだが、どうやら悔しそうに笑っているので問題ないのだろう。
毎回恒例の少し乱暴な歓迎だ。
しかし時が経つにつれ力が強くなってくるなとぼんやりと感じた。
「ねーちゃんはいないの?」
腕を掴まれたままだった一人が見上げながらそう訊ねてきた。
掴んでいたはずが、いつの間にか体重を掛けてぶら下がるような体勢になっている。
手を離してやろうかどうしようか少しだけ考えて、やめることにした。
「そのうち来るんじゃね?いつもの事だし」
「一緒に来ればいいのにー」
「ばーか。誰がアイツと。つうか今どこにいるのかも知らねえよ」
「リーダー早く来ないかなぁ」
「ボスだって」
「隊長だろ!」
ついさっき掛けられた言葉が再び繰り返される。
だが今度はこれが、どれも自分に向けられてはいないという事も分かっていた。
続く言い合いに呆れ笑いが浮かんでしまう。
しばらく放っておいても盛り上がってはいるだろう。
不意に、とても低い位置から服の裾を引かれる事に気付いた。
何かと思い視線を向けてみると、周囲の子供たちよりも随分背丈の低い子供がこちらを見上げていた。
「どうした?」
子供は裾を掴んだまま、きょろきょろと辺りを見回す。そしてもう一度こちらを見上げた。
「ねこさんはいないの?」
遠慮がちな小さな声で、そう聞こえた。
数秒、それが何を指しているのかを考え、理解したと同時に苦笑いをせざるを得なかった。
「アイツはここには来ないな。知ってるだろ」
「でも…もうなかなおりしてもいいとおもうよ」
「お前くらいだよ、そう言うの」
低い位置の頭を軽く撫でてやり、溜息混じりに息を吐いた。
「ま、どっちにしろ、そんな呼び方してたら余計に出てこねえよ」
おそらくはまだ分かってもらえない注意を投げ掛け、手を離した。
案の定首を傾げる様子に、猫に懐く猫、なんて言葉を頭に過ぎらせた。

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20分