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タグ: ミツキ

お題:日記帳

「変なの」
少女は読んでいた日記帳をパラパラと捲りながら、そう呟いた。
誰もいない家。誰もいない部屋。
人が住んでいたような気配はあるのに、今現在誰かが暮らしている空気を纏っていなかった家。
こっそりと忍び込んだその家の中には、一冊の日記帳が置いてあった。
正確には他にも本だのノートだのは色々あったのだが、まあ、そこは割愛。
他人の日記を読むというのは少しばかり気が引けて、それよりもずっと心躍った。
どうせ誰もいないのだから。
持ち主に会うこともないのだろうし。
そう思うと手は自然と表紙を捲っていたのだった。
そうして読み耽ることしばらく。口から出た感想は、そんなものだった。
「変だよね、こんなの」
日記を書いている人物に向かって、聞こえるはずのない言葉を投げ掛ける。
感想、というよりも、ずっと相手に伝えたい言葉だった。
「好きならさ、言わなくちゃ伝わらないよ。相手の心が読めるわけでもないんだから」
好きだ好きだと愛の詞を書き連ねていたわけではない。
ただ静かに静かに、大切なんだと、並べているだけ。
それが余計にもどかしく、むず痒く、叫びたかった。
「手遅れになったら、もう取り返せないんだよ…?」
この日記を書いた人物が、今どこにいるのかは分からない。
間に合ったのか、手遅れになったのかも、何も分からなかった。
日記に結末までは書かれておらず、つまりは途中で終わっていた。
「ここにいたら、会えるかなぁ」
もしその時、日記を書いた人物と、その人物が好いている人物が二人でやってきたら。
気まずいけれど、すこし嬉しいかもしれない。
そんな事を思いながら、少女は部屋をぐるりと見回した。

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15分

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