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お題:月

「綺麗だね」
そう少女は呟くと、両手をすっと空に向けて伸ばした。
その指の先のさらに先に散りばめられた星、ゆったりと佇む月。
真っ暗な森を、静寂な光が照らしている。
くるりと回りスカートを大きく揺らした少女は、にっこりと笑うとそのままストンと、少年の隣へと腰を下ろした。
少年は見上げていた視線を隣へと移し、呆れたように、しかし楽しそうに、少女につられるように笑った。
小さく聞こえる虫の声以外、何の音もない世界だった。
時折通り抜けるように風が走り去るとざわりと大きく歓声のような音が聞こえるが、それが過ぎてしまえば再び静まり返る。
星の声が聞こえそうだね、そう少女が呟いたのはついさっきの事だった。
星はなんて言ってるの?そう少年が問い掛けると、分からない!とあどけない笑顔の答えが返された。
「明日も会えるといいね」
そっと呟かれた少女の言葉が誰に宛てられているのか、少年には分からなかった。
月かもしれないし、星かもしれない。過ぎ去った風かもしれない。
けれど、少年は自然と口に出してしまっていた。
「そうだな」
自分の事であればいいなと、そんな気持ちがどこか隅っこの方にあったのかもしれない。

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15分