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無題

どう見ても良い印象を抱かれないであろうこの容姿を見た彼女が、最初に何を思ったのかは今となっては分からない。おそらく聞けば嘘偽りなく答えてくれるだろうとは思うのだが、さすがに「大嫌いだった」という言葉を直接聞きたくはなかった。
「俺のこと本当に好きか?」
せいぜい聞けるのはこれくらい。
確信を持てているのがこれくらいだった。
「どれだけ自信がないんですか。そんな人だとは思って いませんでした」
毎度、返される言葉は同じだった。それに安心感を覚える。
「ごめん、聞き流してくれていいよ」
「無視したら拗ねるのにですか?」
「…痛いところ突くね」
「事実じゃないでしょうか」
「はい、負けました」
肩を竦めて両手を挙げると、くすりと笑う声が聞こえた。床を見つめたまま、勝てないなぁと改めて思うと自然と口元が緩む。本当に、勝てない。
「いつまで顔下げてるんですか」
顔を上げてくださ い、だなんて言わない。いつまでも彼女は一歩引いて、そしてすぐ横を歩いてくれている。
顔を上げると、見慣れた微笑みが自分の目をしっかりと見つめていた。この目はもしかしたら、いくつも隠している自分の中身をすっかり見通しているのかもしれない。いつか、本当にいつか、全てを打ち明けたくなる目だった。
「好きですよ。私の目の前にいる、あなたのことが」
照れることもなくまっすぐに投げられる言葉が、望んでいるもの だったというのに素直に受け取るには相変わらず気恥ずかしさが先に訪れる。「嬉しい」という感情が、おそらく顔に思い切り出ている。
「今では、ですけど」
付け加えられた言葉。くすっと笑った彼女の顔にはいつになく悪戯っこの笑みが浮かべられ、荘太郎の背筋は一気に冷え込んだ。

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20分