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ノータイトル

カチッ ………ジー………
見慣れない物体と、それから発せられる聞き慣れない音に、首を傾げる。
黒い塊の先に付いたキラリと光を反射する丸いガラスが自分に向けられているような気がして、どうにも落ち着かない。
「あーホラホラ、横向かなーい。こっち向く、そして笑う!」
「見ず知らずの相手に笑えって言われても、ねえ。それに、それは何?」
指を差して答えを問うが、頭のどこかでは答えが返ってくる事を期待していなかった。
「さーあ、なんでしょう?いつか分かるかもね」
ケタケタと笑い声を上げて楽しそうな様子だがこちらは何一つ楽しくない。

ガチャッと音を立て、黒い塊の一部が開いた、ようだ。
そこから取り出されたのは、やはり用途の分からない黒い塊。当然、外身の塊よりは小さい。
「ハイこれ」
ぐいと押し付けられるままに小さい塊を受け取ってしまうと、酷く嬉しそうに目の前の人物は笑った。
「今は分からないだろうけど、多分いつか分かると思うから、それまで持っておくとイイよ」
くるりと周りながら笑うと、彼女の長いスカートと長い髪がぐるりと広がって揺れた。

意味が分からない。
そう言おうとした時には、もう後ろ姿が遠ざかっているところだった。
甲高い笑い声も次第に小さくなっていく。
残された不快感と黒い塊は、そう簡単にはなくならないような気がしていた。