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お題:雑音と砂嵐

ふわふわと浮かぶような感覚に気付いて、次に感じたのは風だった。
ふわりと何かが揺れて、静かに撫でられるような感触。
それが何かに気付く前に、遠くから何かの音が聞こえてくる。
話し声のような、けれど何を話しているのか分からない音。
耳を澄まそうとしても、意識を耳に集中させる事ができなかった。
ゆっくりと身体が傾いてくるような気がする。
ゆっくり、ゆっくりと身体が浮かんで、放り出される。
そのスローモーションの感覚の中で、不意に話し声がぷつんと止まった。
あれ、と、意識の割と浅い所で疑問を感じた途端、急に世界にスピードが戻ってきた。
座っていた椅子が斜めの角度に耐えきれなくなって一気に倒れ落ちる。
慌てて机の端を掴もうとしてもとっくにそれは間に合わなくなっていた。
ガタンッ
大きな音と木の床が音を吸収していく余韻、僅かな揺れ。
幸い下の階には誰もいなかったが隣近所くらいになら余裕で聞こえる音だった。
ワンテンポ遅れてやってきた激痛に、背中と右肘を思い切り打ち付けたのだと気付かされる。
しばらく起き上がる事もできず、投げ出された床に転がっていた。
じんわりと痛みが全身に広がっていく中で、音が世界に戻ってくる。
頭の上の方から聞こえてくる音に、ゆっくりと首を持ち上げて振り返る。
うたた寝しながら点けっぱなしになっていたテレビの画面は、深夜番組を通り越して灰色の雑音を流し続けていた。

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15分