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お題:花火

ドン…という低く遠い音が窓の外から響いた。
何事かと思い真鈴が外に視線を向けると、丁度そのタイミングで遠くの空がパラパラと光った。数秒置いて、再び低い音。
しばしきょとんと窓の外を眺めて、
「何事…」
そう呟いた。
遠くの空に咲く花が何であるかを知らないわけではなかった。ただそれが、どう見ても森の上空に打ち上がっているという状況に唖然としたのだった。犯人は考えるまでもない。
「全く、お気楽なんだから」
そう肩を竦めて息を吐くが、視線はつい窓の外へと向いてしまうのだった。
一つずつ、名残惜しむかのようにゆっくり打ち上がる大輪の花。また一つ、先に形だけが現れる。
ドン―――…ガタン
低い音に続いて、すぐ近くで何かが倒れる音が響いた。近くも近く、すぐ後ろである。
今度は何事かと後ろ、部屋の入り口を振り返ると、そこには倒れた椅子と蹲る烈斗の姿があった。
「ちょっと、どうしたのよ!」
真鈴は慌てて烈斗の元に駆け寄るが、少年の小さな身体はカタカタと震え真鈴の事など見ていないようだった。
「烈、烈!」
肩を揺らし声を掛けても、俯いたままの視線は床しか見ていない。もしかしたら床すら映っていないのかもしれない。
烈斗の様子は、真鈴は初めて見るものだった。しかし、知らないものではなかった。
少し考え、真鈴はそっと烈斗の頬を両手でパンと叩く。そして無理矢理顔を上げさせ、そのまま両手で頬を包み込んだ。
「烈」
少年の目を覗き込むように真鈴はゆっくり呼び掛ける。一度、二度。三度。呼び掛ける度に少しずつ、青紫の瞳が真鈴の姿を捉え始めた。
「鈴ねーちゃん…」
五度目の呼び掛けをすると、烈斗の口が微かに動き、か細い声がようやく聞こえる。目はすっかり真鈴の事を見ていた。
真鈴はほっと息を吐くと、優しく笑ってみせる。
「怖いものなんてないんだから。ね、怖がらなくていいんだからね」
そう言い終わると同時に、再び窓の外からドン…と低い音が響く。途端に烈斗の目が固く閉じられた。慌てて真鈴は烈斗の両耳を塞ぎ、ぎゅっと自分の近くへと引き寄せる。身体はまだ微かに震えているようだったが、先程よりは大分落ち着いているようだった。
「烈、向こうの部屋行こっか」
外からの音が聞こえなくなったのを確認し、耳を塞いでいた両手を離す。その手で烈斗の肩と頭を撫でると、烈斗も閉じていた目をゆっくり開いた。
「向こうだったら音もあまり聞こえないと思うし」
そう言いながら真鈴は立ち上がり、烈斗の両手を引いて彼の事も立ち上がらせた。そのまま手を握り部屋を出ようとする。烈斗は一瞬だけ迷ったようだったが、真鈴に手を引かれ、一緒に歩き出した。
手を引いて歩いていると、烈斗は実年齢よりもずっとずっと幼く感じた。普段から強がらなくていいのに、そう思わずにはいられなかった。

「爆弾使うくせに、花火は苦手なのね」
嫌なからかい方のように聞こえてしまうかもしれない。そう思いながらも、真鈴はそう小さく呟いた。
「鈴ねーちゃんには関係ない」
烈斗の答えは思っていたより簡単で、分からないものだった。

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25分