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お題:祝う

「さーい、なんか欲しいものある?」
出会い頭に問い掛けられ、左翊の思考回路は一旦停止した。
唐突に何を言っているのだろうかとまずは言葉の意味を考え、次にその言葉が発せられた意味を考える。
が、とうとう答えは出ないまま、相方の問いへの返事も止まったままだった。
「急に、なんだ」
ある意味ではありきたりの言葉を辛うじて返し、迅夜の反応を眺めると、今度は彼の方がきょとんとしているのだった。
「急にって、急でもないでしょ。サイ、今日誕生日だよね?」
せっかくお祝いになんでも奢ろうと思ったのに、とつまらなそうに呟く迅夜を、左翊は瞬きを繰り返しながら眺める。
「奢ってくれるのは有り難いが、なんで」
ぶぅとそっぽを向いていた迅夜は、左翊の言葉を聞いてぴたりと動きを止める。
そしてぎこちなく左翊へと振り返る。
しばらく迅夜も左翊もお互いの疑問符しか浮かんでいない表情を見て、やがて双方に意味が全く伝わっていないのだと気付いた。
「なんでって、誕生日でしょ?そう、誕生日おめでとうでしょ?だからお祝いを…って思ったんだけど」
「お祝い…?祝うのか?誕生日を」
「祝わないの?」
「祝ったことがない」
何の冗談を、といった迅夜の顔は、左翊の何も変わらない表情を見て次第に驚きへと変わっていく。
対する左翊はというと、変わらず疑問符ばかりを浮かべている。
ただ迅夜の表情の変化を見て、何かしらの差が二人の間にはあるのだろうと分かっていた。
「うーん、そりゃ、育ち方違えば考え方も違うとは思うけど…そっか、そういう所も違うんだ」
迅夜の言葉は、酷くぼんやりとした言葉だった。
それ以上は何も聞かないよと、それだけを暗に伝えてくる。
だから、左翊も返事をしなかった。

「まあ、でも、俺的には祝っておきたいから、何かあったら奢るよ」
会話が終わって静まり返った部屋に、迅夜の声が流れた。
「あぁ」
迅夜の考え方は左翊には分からなかったが、彼の気持ちだけは受け取ることにした。

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15分